top of page

LOCAL Vol,2

〈ビバ沢渡〉

​沢渡茶

2021,3,10

s%E3%83%91%E3%83%8E%E3%83%A9%E3%83%9E%E8

お茶の向こう側にあるのは、一体どんな景色だろう。

当たり前に、何気なく手にするそれには、

どんな思いが乗っているのだろう。

消えゆくものを守りたい。

地域の未来に繋げたい。

そんな思いがあったなら、それについて私たちが知り考えることは、

地域の大きなになるかもしれない。

未来を担う私たち若者が地域との接点について考えるプロジェクト

『∩LOCAL――キャップローカル』第二弾は、

高知県仁淀川町にある茶農家〈ビバ沢渡〉の岸本ご夫妻にフォーカスします。

 

淹れたてのお茶みたいに温かい、スペシャル茶農家さんのお話、読んでみん?

アンカー 1

高知のお茶の顔 仁淀川町沢渡の「沢渡茶」

アンカー 9

――「先人たちの目の付けどころのすごさ」

まっすぐに届く陽の光が、緑深い山々を照らす。その一部をなす茶畑と、眼下に流れる仁淀川は田舎の原風景のそのものだ。高知市から車で約一時間半、愛媛県との県境に位置する仁淀川町沢渡は、高知を代表する茶所だ。

sめっちゃ引いた茶畑全体-2 2.jpg

岸本憲明さんが代表を務める〈ビバ沢渡〉は、ここ沢渡で茶農家を営みながら、スイーツやお茶漬けなどさまざまな茶製品の開発から販売、カフェの経営までも手掛けている。

「沢渡茶」の名称で知られるそのお茶は、口元に寄せると広がる香りの高さ、そして口にしたときに感じるやわらかな甘みとまろやかさが特徴だ。

お茶特有の渋みもあるが、普段口にするものより格段に優しく、それでいてしっかりと感じる強いお茶の香りには、ほっと息をつきたくなる。

そうした特徴は、沢渡だからこそ。

「沢渡という地区は地形的に朝霧が立ちやすく、寒暖の差が程よくある。それを活かし、香りの高いものを目指してお茶づくりをしています。

人工的な作り方というよりは、沢渡自体がお茶づくりに適した場所。

そういうところは、先人たちの目の付けどころのすごさだなと思います。

先人たち――その存在が、沢渡に茶産業の礎を築き、茶畑が広がる美しい風景を育んできた。憲明さん自身も 10 年前、おじい様からその文化と風景を守り繋げるバトンを受け取った一人だ。そのバトンを受け取るときに憲明さんが抱いた思いこそが、「沢渡茶」が高知で親しまれ、沢渡の人々や景色が輝く理由になっている。

アンカー 2

茶産業の現状とお茶づくりに込める思い

アンカー 3

――「景色が、茶畑がなくなることは想像もしてなかった」

12 年前、高知市内で会社員として働いていた憲明さんは、専業の茶農家になるために実佳さんや子どもたちとともに 仁淀川町へ移住した。きっかけは,子どもの誕生を機に将来について考えた始めたときだった。

a茶木アップ-2.jpg

そして「沢渡茶」の誕生もそのときだった。「もともとは静岡のブレンド茶として出していたので、お店に「沢渡茶」の名前で商品が並ぶことはなかったんです。でも仁淀川町というのは高知のお茶の生産量の 8 割を占める場所。茶所として知ってもらうために、「沢渡茶」と命名しました。」

継ぐ前は、景色が、茶畑がなくなることは想像もしてなくて、沢渡の将来を考えることもなかったんです。22 歳で子どもができて将来を考えていくなかで、自分の子どもの頃を想像すると、沢渡の茶畑が僕の中心にあるなというのが、茶畑をどうしようかと考えたきっかけでした。」

しかし、近年茶産業は価格の低迷が続き、重なる後継者不足などの問題から茶畑も減少傾向にある。昔は約 30 世帯の茶農家があった沢渡も、現在は 8 世帯ほどになり、茶畑の面積も 3 分の 1 にまで減少した。不安定な産業だけに収入も減ったが、そういう状況下だからこそ、失われるものを守りたいという思いが憲明さんのなかで強まった。

「沢渡は秋葉祭りという祭りが有名で、僕も小学校 1 年生から、高知市から戻ってきて参加してたんです。それは子どもがいないと成り立たないもので、地域に人が残らないと続かない。新しい流れを作りたい、お茶だけでなく、この祭りも守りたいという思いでやっています。」自身の中心にある茶畑と、その茶畑がある沢渡のすべてをどう守るのか。それが憲明さんのお茶づくりに繋がっている。

山の斜面に広がる緑の茶畑は、沢渡に欠かせないそこで暮らす人々が紡いできた地域の心だ。

田舎の原風景を、利便性などでなくならせるのではなく、その大切さや、かけがえのないものの価値をみんなに知ってもらいたい。そこに住む人がどんな思いで住んでいるか、そういう情報を発信できるかが僕の目標です。」

その思いは、「沢渡茶」という形になり、楽しみながらお茶を味わってほしいという願いのもと、さまざまな方法で私たちの手に届けられている。

p憲明さん a.jpg
アンカー 4

お茶を“食べる”驚きと茶農家の店  あすなろ

アンカー 5

――「一番大切にしているのは、買ってくれる方の驚き」

〈ビバ沢渡〉の商品には、バウムクーヘンや茶大福、ミルクジャムなど、

「沢渡茶」を“食べる”ことで楽しめるものが多くある。年に一度行われる新商品の開発により、昨年は「生茶漬け」という商品が誕生した。味は 3 種類から選べ、佃煮状になった茶葉は、ご飯にのせたりレタスで巻いたりとそのままでも味わえる。味付けは甘めで、最初はふわりと広がるお茶の香りが噛めば噛むほど濃くなっていき、驚きながらもクセになる味についつい箸が動く。

a商品ボックス.jpg

お茶漬けとはいえ、茶葉そのものを味わう商品はあまり見ない。その感覚こそが、憲明さんの狙いだ。

僕が商品開発をするうえで一番大切にしているのは、買ってくれる方の驚き。ありそうでなかったとか、ついつい手に取ってもらうことを心掛けています。抵抗がある人もおるかもしれませんけど、食べれるんだということも合わせて知ってもらいたい。」

そしてより、“食べる”「沢渡茶」を心ゆくまで、仁淀川町の風景とともに味わえる場所がある。憲明さんの奥さん、実佳さんが店長を務める「茶農家の店 あすなろ」だ。

IMG_1539.jpg
a茶ジャムセット-2.jpg
アンカー 10

――「いかに美味しく提供するか。絶対に生半可なことはしない」

〈ビバ沢渡〉の茶農園から車で 5 分ほど、仁淀川町の国道沿いに「茶農家の店 あすなろ」はある。お茶のワッフルや茶大福などのスイーツや、沢渡茶と仁淀川町の食材を豊富に使った「あすなろ御膳」など、まさにお茶づくしのメニューが特徴だ。

また、陽の光が差し込む店内とテラス席は、仁淀川を見下ろせる絶景スポット。そんな素敵な場所で、日本茶アドバイザーの資格を持つ実佳さんも、憲明さん同様に意外性と楽しさを追求したお茶の食べ方を考え続けている。

p実佳さん あすなろ a.jpg

しかし、憲明さんが茶農家を継ぐために移住を提案した当初は、すぐには受け入れられなかった。

「思いは伝わって来たんですけど、地域をとか、茶畑をとか、自分たちの生活をしていくうえで、お金にならないのにどうしてそこまで情熱的になれるんやろうと納得できない部分もあったんです。でも一度住んでやってみようとなって、そばで見ているなかで(憲明さんの)思いが何年やってもぶれなくて。ここで暮らしながら、自然を愛する気持ちやお茶のこと、仁淀川町のみんながどう思っているかに触れて、ふつふつと、お茶って地域のなかで守っていかないかんことなのかなと考えるようになりました。

そこから、お茶について知ろうと始めた日本茶アドバイザーの勉強が、店の開店に繋がった。「主人から、今度はお店がしたいという話が出たときに、あ、この私の出番が来たと。どうしたらお茶を楽しんでもらえるかと考え始めて、どんどん私がのめり込んでいきました。」

そうして「沢渡茶」を届け始めた実佳さんのモットーは、憲明さんをはじめ、情熱を持ってお茶を作る人たちのためにある。「いかに美味しくお客さんに提供するか。絶対に生半可なことはしない!」憲明さんの熱い思いにはまだ負けるけれど、地域を盛り上げたいという思いは競ってきている、そう実佳さんは力強く話してくれた。

aランチ.jpg
c茶大福-2.jpg
アンカー 7

「沢渡茶」の未来と∩LOCAL

アンカー 8

――「ビバが頑張りゆうき元気になる」

茶農家を継いだ当初、憲明さんには、茶産業を盛り上げ、子どもや孫の世代がお茶づくりを続けられる土台作りをするという強い思いがあった。その思いは着実に、お茶とともに広がり続けている。

aまいこあるく-2.jpg

「おじいちゃんから受け継いだ岸本家の茶畑の面積は 3 倍以上に増えてきてるんです。増えたのは高齢化など色んな事情でやめていく畑を引き継いだもので、沢渡の景観を守るという思いでやっています。今は沢渡で生産するお茶の約 3 分の1を〈ビバ沢渡〉で作るようになっていて、将来的には沢渡全体のお茶を〈ビバ沢渡〉が作り、風景と製品の品質の安定を目指したい。」

沢渡のような中山間地域では、人口減少をはじめとした課題が茶畑の減少や後継者不足などに繋がっていく。「こんな田舎、どうせなにしてもいかん。」「こんな田舎に店作って、誰が来るがよ。」そんな地域の声もはじめは耳にしたそうだ。しかし、その声は「沢渡茶」が多くの人に触れられることで変わっていった。

「僕たちがお店を開いたり、新しい取り組みをして新聞やニュースで取り上げられると、地元の人が、ビバが頑張りゆうき元気になる、嬉しい、と言ってくれる。地元の人が喜んでくれるのが一番のやりがいです。」

一つのお茶の向こうにある景色。それは、地域の未来そのものだ。「沢渡茶」の広がりが、そこで暮らす人々の思いや風景を包み、さらに次世代へと繋げていく。そしてその未来、次世代を生きるのは、ほかでもない私たちだ。何気なく手に取るものが、地域を照らしているのだとしたら。それに少しでも思いを馳せ、考え、意味を持てたら、それはきっと、私たち自身が光を照らす存在になることに繋がるはずだ。

​WRITER

まいこアイコン.png

三谷真依子

Mitani Maiko

2ヶ月半の実家暮らしで

赤子ひとり分ふくよかになってしまった大学生。

だって高知のご飯て美味しいやんかと

箸は止めずにペンは止めてしまうクレアバ記事班。

ご飯の酢いと甘いは楽しめるのに

人生の酢いと甘いはいただけず、食に走る就活生。

食に永久就職したい、です。

bottom of page